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キックオフシンポジウム報告書 刊行物・資料 | 大阪市立大学女性研究者支援室

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(1)

平成

29

年度

主催 大阪市立大学

催 大阪教育大学、和歌山大学、積水ハ ス株式会社

協力 大阪府立大学、奈良女子大学、奈良先端科学技術大学院大学

大阪地域大学コ ソ

アム

後援 大阪府、大阪市、朝日新聞社、読売新聞社、毎日新聞社、産経新聞社

日本経済新聞社大阪本社、NHK大阪放送局

29

文部科学省科学技術人材育成費補助事業「ダイバーシティ研究環境イニシアティブ(牽引型)」

平成 29 年度 ダイバーシティ研究環境実現キックオフシンポジウム

「南近畿からの発信:女性研究者の地平を拓く、未来を創る」報告書

――――――――――――――――――――――――――――――――

発行日 平成 30 年 3 月

発 行 大阪市立大学 女性研究者支援室

連絡先 〒 558-8585 大阪市住吉区杉本 3-3-138

Tel:06-6605-3661

E-mail:ocu-support-f@ado.osaka-cu.ac.jp

URL:http://www.wlb.osaka-cu.ac.jp/

文部科学 科学技術人材育成

「ダイバーシティ研究

イ シ ティ

文部科学 科学技術人材育成

「ダイバーシティ研究

イ シ ティ

南近畿からの発信:

女性研究者の地平を拓く、未来を創る

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I.開会挨拶

1

大阪市立大学 理事長 学長 荒川 哲男

大阪教育大学 学長 栗林 澄夫

和歌山大学 学長 瀧 寛和

積水ハウス株式会社 執行役員 総合住宅研究所長 石井 正義

来賓挨拶:文部科学省科学技術・学術政策局人材政策課 人材政策推進室長 石丸 成人

Ⅱ.第1部講演

「ウィスコンシン大学マディソン校の研究者のジェンダー平等の取り組み:

女性科学・技術リーダーシップ機構」

4

ウィスコンシン大学マディソン校 女性科学・技術リーダーシップ機構(WISELI)

ディレクター/電気・コンピュータ工学科 教授 Amy Wendt

Ⅲ.第 2 部報告

報告 1 「南近畿発:産学官連携によるダイバーシティ推進の取り組み」

8

大阪市立大学 女性研究者支援室 プログラムディレクター、

特任准教授 西岡 英子 報告 2 「南近畿発:連携型共同研究による

“ウィメンズイノベーション”創出の取り組み」

9

大阪市立大学 生活科学研究科 准教授 小島 明子

大阪市立大学 都市研究プラザ テニュアトラック特任准教授 沼田 里衣

積水ハウス株式会社 総合住宅研究所 課長 河崎由美子

Ⅳ.第 3 部パネルディスカッション

「女性リーダー育成と上位職登用の仕組みづくり」

12

【ファシリテーター】 大阪市立大学 大学運営本部事務部長 折原 真子

【パネリスト】

ウィスコンシン大学マディソン校 女性科学・技術リーダーシップ機構(WISELI) ディレクター/電気・コンピュータ工学科 教授 Amy Wendt

大阪市立大学 副学長 池上 知子

大阪教育大学 理事・副学長 岡本 幾子

和歌山大学 理事・副学長 呉 海元

積水ハウス株式会社 経営企画部 ダイバーシティ推進室 部長 小谷 美樹

Ⅴ.閉会挨拶

19

(5)
(6)

大阪市立大学 理事長 学長

荒川 哲男

皆様、お忙しい中お集まりいただきまして 本当にありがとうございます。日本は、残念 ながらまだまだ男性社会で、考えや企画が男 の発想でしかないという所があると思います が、そこに女性や障がい者の方や外国の方が 加わることで、視野が拡がり、多様な意見が 集まって、初めてイノベーションを起こすこ とができると思います。

今回、文部科学省よりダイバーシティ研究 環境実現イニシアティブ(牽引型)に採択さ れました。本事業では、能力を発揮したくて も環境が許さないという女性研究者を支援し ていきます。女性の持つ力を思う存分発揮し ていただくような社会をつくることが革命を もたらします。大阪教育大学と和歌山大学、 積水ハウス株式会社と本学とで、この南近畿 でまずイノベーションを起こしていこうと、 キックオフシンポジウムを開催することにな りました。南近畿にとどまらず、モデルケー スとして、関西、全日本、そして世界に普及 していくきっかけをここでつくり、皆様の協 力を得ながら成功に導いていきたいと考えて おります。一致団結して女性研究者の活躍促 進ができるように祈念を申し上げます。

大阪教育大学 学長

栗林 澄夫

荒川学長からもご案内がありましたよう に、4機関が一緒になって、女性の活躍でき る場を活性化し、サポートしていく取り組み を進めていこうとしています。

大阪教育大学の女性管理職の比率は 20% を超えています。女性研究者の割合も補助事 業期間中の 30%の達成目標のところを現在 26%を超えており、これを維持発展していき たいと考えています。子育て支援や、厚生労 働省の「くるみん認定マーク」取得にも携わっ てきましたので、こうした活動のサポート、 ネットワーク化により、大きな力にしていき たいと考えています。

最終的には、男女半々であるような機関の実 現を目指していきたいと考えています。今回の 取り組みを通じ、南大阪、近畿地区全体の活性 化を図る一助になればと考えています。

(7)

和歌山大学 学長

瀧 寛和

和歌山大学も男女共同参画推進室や男女共 同参画の学長補佐を設置して、女性研究者の ための研究費支援に加えて、子育てや介護を 行っている女性研究者に支援する取り組みを 行ってきました。今までは和歌山大学単独で したが、今後は4機関の共同によって様々な ノウハウを共有しながら、各大学、そして企 業の中での女性の活躍がさらに拡大すること を大変期待しているところです。4連携機関 にとどまらず、皆様のご意見、お知恵をお借 りしたいと思っています。

日本の人口減少によって、これからは男女、 年齢、国籍などを問わず、様々な形で日本を 支え、新しいイノベーションを起こす仕組み を創っていくことが非常に重要です。その中 で、特に女性研究者が増えるようにしたいと 思っております。

和歌山大学の現状としては、女性の教職員 数は 20%を少し超えたところです。もっと 女性比率を上げて、教員にとっては研究しや すい環境、職員にとっても働きやすい環境を つくっていくことが使命だと思っています。

積水ハウス株式会社 執行役員

総合住宅研究所長

石井 正義

積水ハウスは、2006 年に人材サステナビリ ティを宣言し、女性の活躍推進、多様な働き 方、ワークライフバランス、多様な人材の活 用を推し進めています。育児休業、介護休業、 在宅制度などの制度があり、私の担当する研 究開発の職場でも、何名かは休んでいること が通常です。そのため、フォロー体制も自然 に出来上がるなど、当たり前の基準が変わっ てきていると思います。外に出て、会社では 得られないことをつかみ、その経験を活かし て新しいイノベーションにつなげていっても らう。誰もが生活者で、いかに様々な経験を 生かしていくか、住まいや暮らしの研究開発 面ではとても重要なことです。

(8)

文部科学省科学技術・学術政策局

人材政策課人材政策推進室長

石丸

成人

本日のシンポジウムのテーマは、ダイバー シティ研究環境の実現、特に女性研究者の活 躍促進であると伺っております。このテーマ は大変重要でありまして、政府においても、 現行の第5期科学技術基本計画で、自然科学 分野の女性研究者の新規採用率を 30%に引 き上げることを目標に掲げて取り組んでいる ところです。

女性研究者の活躍促進の重要性について は、我が国を取り巻く3つの環境変化への対 応として重要な意味を有しているものと考え ます。

1点目は人口構造の変化への対応です。人 口減少、とりわけ生産年齢人口の減少が中長 期にわたって続くことが予想される中、男女 を問わず国民一人ひとりがその能力を十分に 発揮できる環境を整えていくことが我が国の 社会の活力を維持していく上で重要です。

2点目は、産業構造の変化への対応です。 我が国が世界経済のトップランナーとなり長 い年月が経ち、近年ではキャッチアップされ ることが増えている中、我が国にはイノベー ションの促進が強く求められています。その イノベーションの牽引役である科学技術・学 術の分野における研究環境を考えたときに、

イノベーションを促進していく観点からは多 様な視点、多様な発想を取り入れていくこと が重要であると考えます。

3点目は、国際環境の変化への対応です。 グローバル化が進展する中、アカデミアの世 界においても、優秀な人材の獲得競争が激し くなっております。そのような中、国内外の 研究者や学生から選ばれ、優秀な人材を惹き つけられる大学であるためにも、女性の研究 者の皆様が活躍できる環境をつくっていくこ とが重要であると考えます。

この度、4機関で、産学官連携で「ウィメ ンズユニット」をつくられ、将来のPIにな られる人材を産学官の共同研究を通じて育成 されていくと伺っております。また、女性研 究者のデータベースを4機関で供用されるな ど、上位職の女性研究者の育成の取り組みを 進めていくと伺っております。大変時宜にか なったものであり、今後の女性研究者の支援、 我が国の研究環境の向上にとり意義のある取 り組みであると思います。今後の成果に期待 をいたしております。

(9)

今回歴史的な機会である素晴らしいシンポ ジウムに招待していただき、ありがとうござ います。

初めに少し自己紹介させていただきます。 大学のころから工学を学んでおり、ウィスコ ンシン大学マディソン校で教授をしておりま す。28 年間の教員生活の中でいくつか部門 長の仕事を経験してきました。

ウィスコンシン大学の総長は経済学者のレ ベッカ・ブランクという女性で、もとはオバ マ大統領の下で商務省長官をされていまし た。ウィスコンシン大学マディソン校はウィ スコンシン州最大の大学です。学生数の3分 の1が女性ですが、理数専攻だけを見ると もっと少ない数となっており、まだ改善する 必要があるということです。

教員対象調査結果

私自身は教員を対象とした調査を数年に 1 度行っています。データを見て、グループご とに分けて、そのグループのメンバーがどう いう経験をしているかを分析しています。自 分が学部の活動から疎外されている場合があ

るかという質問に対して、男性よりも女性の 方が、白人よりも有色人種の方が、障がい者 や LGBT の教員の方が阻害されていると考 えています。

具体的には、2003 年から 2016 年までの間 にアンケート調査を4回、実施しました。調 査では、男女それぞれに、4つの質問をしま した。その4つの質問とは、「同僚から尊敬 されていると思うか」、「阻害されていると感 じているか」、「自分の研究が評価されている か」、「女性に対する環境が良いか」です。こ れらの質問に対して、4回すべての調査にお いて、男性の方が女性よりも非常に良いと答 えています。けれどもこの男女格差は徐々に 縮小している傾向にあり、正しい方向に移行 していると思います。

そして最後にもう一つ統計をご紹介しま す。リーダーシップの立場にいる女性の割合 は、15 年ほど前は5%のみでしたが、2011 年 に約 20% まで上がりました。しかし、2011 年以降ほとんど横ばいという状況です。少し 改善はしているけれども、まだまだ改善の余 地があるといえます。

WISELI での活動について

WISELI は理数工学系の女性教員をサポー トするリサーチセンターです。私とモリー・ カーンズ(医学部教授)で共同ディレクター をしています。そしてジェニファー・セリダ ンとイヴ・ファインという 2 人の常任スタッ

「ウィスコンシン大学マディソン校の研究者のジェンダー平等の

取り組み:女性科学・技術リーダーシップ機構」

ウィスコンシン大学マディソン校 女性科学・技術リーダーシップ機構(WISELI)

(10)

フがおります。また、クリスティーン・リバー ナウは、プログラムの評価をする担当です。 WISELI は大学や学会における男女の調査 をしたり、他校での調査のサポートもしたり しています。また、ガイドブック、パンフレッ トなどの出版もしています。

WISELI は 2002 年に設立されました。設 立時の理事は、モリー・カーンズとジョー・ ハンデルスマンでしたが、2007 年にハンデル スマンが別の大学に移られたときにそのあと を引き継いで、私は共同ディレクターになり ました。設立資金は、政府からの5年間の研 究助成金による 375 万ドルでした。現在の資 金 は 政 府 の 助 成 金、大 学 か ら の 支 援、 WISELI が行う活動による収入、あるいは個 人の献金などです。

WISELI での活動はすべて調査結果に基づ いています。WISELI の設立時に幅広く学内 の女性教員、特に上位職の女性教員に聞き取 り調査をし、そこで得られた意見や指摘を基 礎 に WISELI は 活 動 し て い ま す。さ ら に WISLI のプログラムには、そのプログラムそ のものの評価、そして皆さんのフィードバッ クを得ての改善も行っています。最終的な目 標としては、大学があらゆるダイバーシティ を受け入れるようになることですが、そのた めに UW ウィスコンシン大学マディソン校 で女性教員の活躍を支援していきたいと思い ます。

アンコンシャス・バイアス(無意識のバイアス)

私たちのプログラムの背景についてお話し します。まず先入観、固定観念について説明 したいと思います。心理学者が共同で行った 研究で、人々が男性、女性についてどのよう な思い込みがあるか調べたものがあります。 回答でもっとも多かった特徴としては、男性 は決断力がある、自主的である、競争力があ

る、感情に流されない、ロジカルである、強 いというものがありました。女性ですと、人 当たりが良い、優しい、親切、感情豊かとい う言葉が挙げられました。この研究結果か ら、男性や女性について、人々には固定観念 があると同時に、それを期待している。つま り、男性はこういうふうに振る舞うべきだ。 女性はこういうふうに振る舞うべきだという ところにそれがつながってしまっている、期 待値になってしまっているということが明ら かとなりました。このような固定観念、思い 込みが実は職場にもインパクトを与えていま す。リーダーの特徴は男性の特徴と多くの共 通点があるということになります。つまり連 想するわけです。男性の特徴とリーダーの特 徴に関連性をつけてしまいます。

このような特徴というのは、逆はどうで しょうか。例えば女性が、決断力があって自 主的であると、これにはマイナスのリアク ションが伴ってしまいます。女性というの は、親切で優しくて感情豊かだというふうに 思われているからです。ところが、このよう な性質や特徴は、もちろんリーダーシップの スタイルとして効果がある可能性もあるわけ です。このジェンダーのルールといえるもの が、学術的なポジションにいる女性の立場に 影響を及ぼしてしまっていることを示す概念 が、アンコンシャス・バイアス(無意識のバ イアス)です。

(11)

く見積もり、低い身長の男性を高く見積もっ てしまうことがあります。受け取ったデータ をどのように処理するかというところに影響 するのがアンコンシャス・バイアス(無意識 のバイアス)です。この男女に対する固定観 念は、採用のプロセスやメンタリング、在職 期間、昇進、査読付き研究、研究の提案の評 価、リソースに対するアクセス、賞に対する ノミネーションなどに影響が出てきてしまう わけです。これらはすべて教員として成功す るのに必要な要素です。

アンコンシャス・バイアス(無意識のバイ アス)に関する研究を紹介します。学部生に よる研究室マネージャー応募書類に、一つは 女性の名前、もう一つは男性の名前を付けて 教員に配りました。内容は全く同じもので す。教員の評価を見てみますと、好感度を除 くすべての要素で女性は男性よりも低く評価 されました。例えば男性の方が、採用意向が 高く出ましたし、初任給に関しても女性より も高い額が推奨されました。この結果から、 教員の中に男女に関するアンコンシャス・バ イアス(無意識のバイアス)の存在があるこ とが分かりました。

WISELI の取り組み

WISELI は3~4年に1度、教員を対象に した調査によって、教員の満足度、職場環境、 大学におけるニーズ、プログラムの効果を調 べたり、学部のメンバーや学部長に対する ワークショップを行ったりしています。

また、WISELI は2つの助成金を提供して います。例えば子供の病気で助成金の申請に 間に合わなかった場合、次の助成金の申請が できるまでのつなぎとして少額ですが金銭的 支援を提供しています。人生における危機を 克服しつつ研究が続けられるようにサポート を行っています。もうひとつは、理数系の女

性が招聘講演者としての経験を増やせるよ う、招聘講演者となった場合に旅費を支給す るという助成金です。

また、私たちのスタッフは、ワークショッ プや研修で使用するいくつかの小冊子を作成 し、他大学にも配布しています。

アンコンシャス・バイアス(無意識のバイア ス)の是正のために

アンコンシャス・バイアス(無意識のバイ アス)を取り除くためにどうしたらよいのか という質問を受けることがあります。そのた めには、まずアンコンシャス・バイアス(無 意識のバイアス)があることを認識して、す べての段階で客観性を問うていくことが重要 です。また、委員会のメンバーや応募者の プールの多様化を図ることも重要です。でき るだけ幅広く網羅していくこと、そして全て の候補者に対して同じ評価基準を適用しなく てはなりません。

それから、固定観念につながるような言葉 を使わないことです。評価の基準はしっかり と事前に決めること、評価を拙速に行わない こと、雑念を払うこと、一人ひとりの個人に 意識を集中すること、評価基準の公平性を再 検討すること、評価者の一人ひとりが公平性 に対して説明責任を負うことが必要だと思い ます。

次に組織や機関としてどういうことが出来 るでしょうか。まずはトップが多様性の価値 を理解していることが重要だと思います。そ れからトップがダイバーシティの機会や課題 を認識すること、全ての組織の人々が公平な 形で人材開発をできるようにするための組織 文化の醸成が必要です。

(12)

力をしているのかということを見ていくプロ グラムです。

そして、歴史的に男性の観点が織り込まれ た大学組織の政策や方針を再検討することが 必要だと思います。

アメリカでは、テニュアトラックという制 度があります。例えば、テュニアトラックで は、准教授が正式な教授になるまでの期間は 通常6年ということになっています。ところ が、この中で例えば出産や病気など人生の転 機を経験することもあるかもしれません。そ のような場合、この期間を延長するというこ とを可能にしてあげるべきだと思います。

それから、アメリカで実施しているのが パートナーの雇用配置への配慮です。パート ナーのいる男女の応募者に対して、同じ大学 もしくは周辺の大学への配置を行います。ま た、育児施設や補助制度もあります。職員全 員を対象としたサポート訓練も行っていま す。

こういった大学機関のポリシーとともによ く聞かれるのが、何が、女性が成功するため の要素であるのかということです。この質問 に対してはこのように答えたいと思います。 男性、女性はともに有能であるということ、 そしてアンコンシャス・バイアス(無意識の バイアス)があるということです。そのため に、まずは組織を変えていかなくてはいけな いと思います。女性を含んだ全ての組織のメ ンバーがきちんと機能できるような組織であ るということがまず必要だと思います。 その場に適した環境が重要になります。例え ば大学によって、また国によっても違いがあ ると思います。ですから、その場所で、その 組織で、選ぶ解決法というのは違うと思いま す。

そして最後に、女性が若い段階からキャリ アを構築し始めるときに、まずは自分自身を

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ダイバーシティとは、性別、人種、民族、 障がいのあるなし、性的指向など、多様な人々 が違いを尊重し、ともに生きる社会をつくる という理念を示す言葉でもあります。

本学で特に取り組んでおります性別に関す る男女共同参画、ジェンダー平等についてご 報告いたします。本学の女性院生比率は現在 30%、それに比べて女性教授比率の数は 11. 3%と低く、特に理工系の女性教授比率が低 くなっています。研究者の実態調査からは、 女性教員比率が低い理由として、男女の教員 ともに、家庭と仕事の両立の困難を挙げてい ます。また、女性教員の約 80%が研究時間の 確保を挙げており、男性よりも高い比率に なっています。日本の社会では、家庭におけ る性別役割分業がまだ根強く残っており、本 学の調査でも子育て中の女性教員の研究時間 の確保には非常に困難がある状況が浮き彫り になっております。男性教授からは、大学教 員を目指す女性が少ないという意見がある一 方、女性教員からは、男性の意識、性別役割 分業などの社会的通念、男性に比べて採用が 少ないなどの意見があります。女性の比率が 低いと、ロールモデルが少ない、組織の活性

化が図れないという課題が生じます。また、 ワークライフバランス支援が属性にかかわら ずニーズが高い状況です。さまざまな取り組 みの相乗効果によって、女性研究者のリー ダー育成、上位職登用が図られていくのでは ないかと考えています。

本学は平成 24 年 11 月に女性研究者支援室 を開設しました。平成 25 年度に文部科学省 補助事業「女性研究者研究活動支援事業」の 採択を受け、その後、さまざまな好事例が生 まれております。今年度採択されたダイバー シティ研究環境実現イニシアティブ(牽引型) については、代表機関が本学、大阪教育大学、 和歌山大学、積水ハウス株式会社が共同実施 機関となっております。4連携機関とも女性 研究者採用比率 30%、女性研究者比率 20% 以上をこの6年間で達成する目標を掲げてお ります。4連携機関以外に、協力機関として 奈良女子大学、奈良先端科学技術大学院大学、 南大阪地域大学コンソーシアム 13 大学に参加 していただいており、さらに大阪府、大阪市 との連携を強化してまいりたいと思います。 主な取り組みとしては、女性研究リーダー 育成のために、「連携型共同研究助成事業」、 大阪市立大学と積水ハウス株式会社の女性研 究者でつくる「産学官連携ウィメンズユニッ ト」の共同研究プロジェクト、上位職登用促 進のための「プロモーションメンター制度」 を実施します。

また、ワークライフバランス支援として、

学内行事等での一時保育者育成のために、「保

育サポーター養成セミナー」を行います。

「南近畿発:産学官連携によるダイバーシティ推進の取り組み」

大阪市立大学 女性研究者支援室 プログラムディレクター 特任准教授 西岡 英子

「南近畿発:産学官連携によるダイバーシティ推進の取り組み」

大阪市立大学 女性研究者支援室 プログラムディレクター、

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食品には3つの機能があります。一次機能 として、生きるためのエネルギーの供給。二 次機能として感覚機能、おいしさを供給する もの。三次機能として、生体機能、調節機能。 すなわち生活習慣病の予防や健康の維持増進 に働くことができます。

私たちは健康な状態と疾病の状態がありま す。これはさまざまな原因が関与するわけで すが、特に食事が関与することがよく知られ ています。また、生活習慣病というのは食生 活と密接にかかわっています。一方で、第三 次機能の生体機能調節作用によって疾病の予 防やさらに重症化を抑制するということが知 られています。すなわち食事というのは実は 諸刃の剣ともいわれております。私の研究 は、疾病を予防する食品成分の探求と、その 作用メカニズムの解明についてです。例え ば、野菜を例にしますと、玉造黒門越瓜とい うウリの抽出物はアルコール性肝障害の発症 を予防することや南姜というタイのショウガ に含まれる 1’-アセトキシチャビコールアセ テートという成分が老化促進モデルマウスの 認知機能改善効果を示すということが研究で 明らかになりました。

そこで、基礎的な研究から食生活学への横 断的連携の可能性があるかどうかについて検 討したところ、機能性の解明と、調理によっ て得られる美味しさという精神的満足感か ら、積極的な調理行動が必要ではないか、そ うであれば、やはり食育というのに非常に重 点を置いた方がいいのではないかという考え にいたりました。すでに京都府立大学京都和 食文化研究センターの山下満智子先生は、調 理の習慣が脳機能によい刺激を与えるという 報告をされています。生の野菜が蒸し加熱す ることで機能成分であるGABAが非常に増 えること、さらに大きな容積が少なくなって、 食べやすくなるということも、実際の調理が 非常に有効な手段であるということが明らか となりました。

そこで私と大阪教育大学の井奥加奈先生と 和歌山大学の山本奈美先生の3人でタッグを 組み、私たちは、栄養学から、食品科学、そ して最終的には教育学へと向かった連携をし ようと考えました。私たちは、この共同研究 から、食品の機能性の解明とともに食指導に 関する教材づくりの提案に向けて今後研究を 積んでいきたいと思います。

(15)

私は、大阪市立大学で臨床音楽学、音楽療 法を専門領域として、理論と実践を往復する 形で研究を行っています。実践研究として、 2005 年から音遊びの会、2014 年からおとあ そび工房という知的障害者や音楽家が表現活 動を行う会を主宰しています。

最初に、この荒涼とした庭の写真から紹介 したいと思います。これはフランスのジル・ クレマンという庭師のものです。この庭を作 るに当たって彼が大切にしていることは、繁 殖のために移動しやすい植物を積極的に庭の 中に取り込んでいるということです。植物の 動きに合わせて庭の構造を動かしていくとい う彼の思想が、技術や価値観によらない即興 音楽のあり方を考える上で非常に近いなと思 いまして、今日は分かりやすくこの庭のイ メージを持ってきました。

私の研究領域は、これまで音楽療法、コミュ ニティ音楽療法、アートマネジメントと移行 してきました。共通するのは即興音楽を行う 活動であるということで、それぞれの領域に おけるその機能を中心に、そこにあらわれる 関係性や評価の問題について研究してきまし た。

音 楽 学 に お い て は、前 世 紀 の 終 わ り に Musicking という概念が考えられ、音楽を既

に作られた物のようではではなく、音楽する という行為全般を扱うようになりました。一 方で音楽療法では「音楽を意図的、計画的に 使用すること」を定義として掲げる場合が多 く、この意図的、計画的に使用するというこ とに私は疑問を抱いてきました。音楽療法で は治療効果を実証的に示していくことに焦点 が当てられますが、音楽の芸術性によって治 療がなされるという側面が過小評価されてい るのではないかと感じたたため、音楽療法に おける芸術的側面の可能性について研究を行 い、実践でも即興音楽活動を社会実験として 行って来ました。最初に企画したのは、音楽 療法の領域と、1960 年代から発展したフ リー・インプロヴァイゼーションと呼ばれる 即興音楽の領域の2つの領域の融合によるプ ロジェクトです。障害にまつわる様々な問題 を多様な人との間で考え、障害のある人の表 現を福祉とは異なる視点で評価しようと提案 するもので、コミュニティ音楽療法という新 しい音楽療法の領域としても多くの知見をも たらすものでした。

現在の研究テーマは、即興音楽や言語的活 動を含めた対話活動の方法論の研究とその理 論基盤を整備することです。音楽療法の治療 観を捉え直し、障害者を含む多様な人々が共 通の課題を見出しつつ、ともに歩むというこ とを考え続けて行きたいと思っています。こ うした研究の一環として、ダイバーシティイ ニシアティブの研究では、音楽教育の領域と の共同研究も現在、計画実施中です。

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これからの日本を支える多世帯居住に関す る研究開発と題しまして、大阪市大と積水ハ ウスの共同研究について報告いたします。私 は、ライフスタイル研究開発グループのリー ダーをしております。共同研究は、多世帯居 住、集まって住む暮らしということにテーマ 設定し、小伊藤先生、王先生、私の 3 名で研 究を進めています。

研究の背景に、日本は世界からも注目され るような高齢社会先進国であること、介護は 家庭に期待されている政策がとられているこ と、若者が減る中で子育ての負担はますます 大きくなっていくこと、高齢者がひとりで住 んでいると行政も支援が大変になることなど が考えられます。このような社会課題に対し ては、集まって住む暮らしの見直しが大事に なっていくのではないかと思っています。日 本の住まい方、とりわけ介護や子育ては女性 に負担がかかりがちなのですけれども、その 問題解決の一助にもなるのではないかと思っ ています。

積水ハウスでは、多世帯住宅、多世帯の暮 らしに対する提案をまとめた「カゾク・ト・ カゾク」を 2013 年にリリースしました。こ の企画は、暮らしのシーンと家族の距離感で

細やかに提案するスタイルです。団らん、食 事、料理、孫との触れ合い、入浴、お出かけ、 こういった暮らしのシーンに、家族の距離感、 例えば若い家族と別の家族の重なり度が小さ い状態や、いつも一緒でいいよという重なり 度の大きい状態、この距離感を掛け合わせる ことでプラン提案を進めています。今も将来 も快適に暮らすために、身体変化に備えるユ ニバーサルデザインの提案も組み込んでいま す。研究を進めていくことで、暮らしのシー ンと距離感で提案している中身にもっと広が りを持ち、社会に提案をできるようになれば と思っています。

研究目的は、介護、子育て等の総合ケア、 生活の共同化の視点から、多世帯居住の暮ら しとその経年変化に着目し、現代における多 様な多世帯居住の動向とニーズを把握し、暮 らし方、住まい方提案を行うことです。現在、 企業研究や市場調査に取り組んでいます。最 終的にはクラスター別の住まい方開発まで実 施していきたいと思っています。住まい方開 発においては、生活者評価会のようなオープ ンイノベーションも大事にしたいと思ってお ります。

「大阪市大と積水ハウスの共同研究

~これからの日本を支える多世帯居住に関する研究開発」

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〇折原真子 女性リーダー育成と上位職登用 の仕組みづくりというテーマをいただいてお ります。まず各機関の先生方から、特に今後 強化したい、頑張りたい、アピールしたい点 についてそれぞれお話しいただきたいと思い ます。

〇池上知子 前回の事業では准教授は増えた けれども教授が増えなかったので、今回は教 授の比率を増やすことがこの事業で達成すべ き大きな目標です。そのためにはポジティブ アクションを継続していかなければならない と考えています。女性は長い間意欲も能力も ある人が無意識のバイアスの結果として不利 な状況に置かれてきました。それを取り戻す には時間がかかります。それゆえ、まずポジ ティブアクションで底上げする努力を続けな くてはならないということを申し上げたいと

思います。それから、女性研究者の研究力向 上です。最終的には性別に関係なく実力で男 女が競い合える環境を作り出すことを目指し ております。

〇岡本幾子 大阪教育大学は国立の教員養成 大学で、その特性から女性教員の比率はとて も高く、2014 年度の国立大学協会の調査で は、86 ある日本の国立大学の中で 8 位でし た。しかし理数情報系分野の女性研究者は、 多くはありません。女性の活躍を促進するた めにも、育児や介護等のライフイベントの際 には研究支援員制度を積極的に活用してもら えるよう、広報にも一層力を入れていきたい と考えています。

大阪市立大学が構築されました女性研究者 ネットワークシステムを本学でも平成 28 年 度から共同利用させていただいています。ま た、大学の枠を超えた研究リーダーの育成を 図っていけたらと考えています。

アピールしたい点としては、保育サポー ター養成研修講演会や管理職研修などの取り 組みがあります。申し込み手続きが必要です が、大学のホームページで公開しております ので、申し込みをしていただきまして、奮っ てご参加いただければと思っております。

シ ン

シ ン

「女性リーダー育成と上位職登用の仕組みづくり」

【ファシリテーター】

大阪市立大学 大学運営本部事務部長 折原 真子

【パネリスト】

ウィスコンシン大学マディソン校 女性科学・技術リーダーシップ機構(WISELI) ディレクター /電気・コンピュータ工学科 教授 Amy Wendt

大阪市立大学 副学長 池上 知子

大阪教育大学 理事・副学長 岡本 幾子

和歌山大学 理事・副学長 呉 海元

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〇呉海元 和歌山大学は 4 学部約 4700 人の 学生を擁しており、国際的女性研究者を多く 雇用しています。2002 年に男女共同参画室 を立ち上げ、いろいろな努力をした結果、7.1 ポイント女性教員比率が増加しました。今回 この連携体制に参加することによって、皆さ んの先進的な取り組みを勉強しながら、学内 の共同参画の意識を向上させ、共同研究件数 や外部資金獲得件数、比率、金額ともに増や すことが出来ればうれしく思います。また、 いただいた人件費の方は研究支援員制度によ る子育て中の女性教員への支援に使用し、研 究力向上につなげたいと考えています。

○小谷美樹 私からは当社のダイバーシティ の取組と、この事業に対する意気込みをご説 明させていただきたいと思います。

積水ハウスの会社概要について説明させて いただきます。創業は 1960 年、ビジネスは 当初は戸建て住宅中心の請負ビジネスからス タートし、その後ストックビジネス、開発ビ ジネス、国際ビジネスと事業拡大してきまし た。成長基盤は人材ということで、経営トッ プの方針も、積水ハウスの成長には女性の活 躍が不可欠であるとしています。お客様の半 分は女性であり、住宅のニーズも多様化して おります。2017 年度の研究所の新卒採用は 3分の2が女性でした。しかし我々の建設業 という分野は女性の活躍が進んでいない分野 です。建設業界は、ある統計では、女性の比 率は平均 15.2%ですし、管理職では1.5%と なっています。当グループ全体で見ても、女 性の割合は約 25%、そして管理職も2.9%と いうことで、まだまだ少ないのが現状です。 これを会社全体としましては 2020 年に管理 職を 200 人、5%を目標に今取り組んでおり ます。その中でも研究所のほうは5.7%、今、 女性管理職がおり、積水ハウスを引っ張って

いる組織です。

さらに女性研究者が活躍していくための取 り組みを 4 つ紹介したいと思います。ひとつ めはウィメンズカレッジです。こちらは課長 以上の管理職を計画的に登用する取り組み で、下駄をはかせるのではなく、管理職にふ さわしい実力をつけて登用する仕組みです。 次に仕事と育児の両立いきいきフォーラムを 紹介します。これは育児中の女性、上司、パー トナーの3者が参加しまして、会社の制度の 説明、そしてグループディスカッションによ り本音の討議をして、女性の活躍の意欲を引 き出し、上司のマネジメント力の向上を図り ます。夫婦とも家事、育児の協業をすると いった学びも得る機会であり、両立しながら 活躍する環境をつくります。次に働き方改革 として在宅勤務を紹介します。当社ではIT 技術により研究開発などの情報や労務管理を 一元化しています。育児、介護中の社員には 自宅に会社対応のパソコンを置いて、週に 2 回まで在宅勤務が可能です。女性研究者も 2 名、この制度を利用しております。最後に上 司の理解の促進、意識改革です。あらゆるマ ネジメント層の研修にダイバーシティのセッ ションを入れて進めております。これらの結 果により、内閣府もしくは経産省、厚労省な どから、女性が活躍し成長する企業というこ とで、幾つか表彰をいただいております。

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〇折原真子 この事業は 4 機関が連携して取 り組むことで、お互いに取り組みの内容や達 成状況などの情報共有ができます。その結 果、単独でするのとは違った効果が出ると 我々は考えていますが、エイミー先生、何か お気づきになられた点はありますか。

〇エイミー・ウェント とても興味深いコメ ントを聞かせていただきました。2 点ほど気 づいた点をコメントしたいと思います。私の 先程の講演の時に、大学の教員に対する支援 について男女共同参画を達成するためには 様々なところを変えていかなければならない と話しました。その中で、アメリカで議論し ているひとつはパイプラインです。私の所属 する電気工学部も女子学生は非常に少ないの が現状です。つまりより幼い段階からいろい ろな取り組みをして、子どもや学生たちに対 して理系進学も含めた様々な将来の選択肢が あることを示す必要があるということです。 さらに、採用のプロセスでバイアスが発生す ることがあります。社員が子育て中で家事・ 育児が必要な場合はフレックス制度を導入 し、家事・育児と仕事を両立するようにする ことが必要です。また、組織においてトレー ニングや昇進の機会を全社員に平等に提供す ることが必要だと思います。

2 つ目のポイントである 4 機関の協働につ いては、一つの大学で取り組むよりも複数で 取り組む方が、単独の機関でできる以上のこ とが幅広く達成できると思います。

〇折原真子 連携することで効果が広がって いくという点はまさにそうだと思います。エ イミー先生のご講演の中で無意識のバイアス についてかなり詳しくお話を伺いました。無 意識のバイアスについては私も存じ上げな かったのですが、会場の中でこの無意識のバ

イアスについてすでにご存じだったという方 挙手いただけますか。やはり少ないですね。 池上先生、心理学の立場で無意識のバイアス についてご解説いただけますか。

〇池上知子 無意識のバイアスは、社会心理 学では、偏見や差別を生む非常に重要な要因 とされています。人間は意識的に考えている ことがすべてではなく、実は膨大な情報を無 意識に処理しています。この無意識のプロセ スは、習慣や経験を通して、いつの間にか形 成された固定観念や知識(ステレオタイプと も称します)によって自覚なく制御されてい ます。すべてを意識的に処理していては非常 に負荷がかかりますので、適応上有利なよう に、楽に簡単に済ませられることは無意識的、 自動的に処理できるシステムを脳が獲得して いると考えられています。ところが、このよ うな適応的なシステムが、ときに問題のある 行動を引き起こすのです。意識的なバイアス

といえば、「女はだめだ」と公言して、はばか

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うとされています。加えて、人物を評価する 際にも既成概念に合うような資質をもつ人物 のほうを好ましく感じるようなこともござい ます。そのような厄介なものが、無意識のバ イアスです。そのことを学ぶことがまず大事 なのですが、そういうことにならないように 気をつけようと思うほど、かえってリバウン ド効果が表れるということも知られていま す。そのときは抑制できるのですけれど、そ の後ふと気を許すと、逆に、よりステレオティ ピックに、差別的になるといったようにです。 これを克服するには、かなりの困難を伴うこ とは知っておく必要があると思います。

〇折原真子 人事採用や選考のポリシーも WISELI では定められていますが、日本でそれ をすぐに取り入れましょうというのはなかな か難しいことだとは思うのです。足元から、 まず自分たちは何ができるのかということ を、バイアスやバリアを取り除くような取り 組みについて、もう少しお聞かせいただけま すか。岡本先生、お願いします。

○岡本幾子 研究上の上位職、つまり昇任を 目指す女性研究者は多いと思いますが、大学 全体のマネジメントに積極的に関わっていこ うという女性研究者は、現状ではそう多くは ないと思っております。このことについて2 つ補足をしたいと思います。1つ目は、大阪 教育大学は国立大学の中では、女性研究者の 割合が高い大学であると先ほど申しました が、その年齢構成を見ますと、現在、いわゆ る上位職適齢期にある女性研究者はけっして 多くはありません。すなわち母数が少ないと いう現状があります。2つ目は、上位職適齢 期にある女性研究者が若手であった頃、大学 全体のマネジメントは、特定のとても頑張っ てくださる男性が一手に引き受けているとい

うような傾向があったように思います。これ は言い換えれば、一昔前は、若手の女性研究 者が大学のマネジメントに関わるチャンスが 余りなかったとも言えます。この2つ目に関 しては、当時、無意識のバイアスがあったの かもしれません。若い研究者が上位職を目指 して自ら行動を起こすという積極性はもちろ ん大切です。一方で、大学のマネジメントに 若手女性研究者が自然に関わっていけるよう な環境づくりもとても大切だと思っておりま す。

○小谷美樹 無意識のバイアスに対する企業 の取り組みを1つご紹介します。公平な評価 という切り口のお話です。リーダーのマネジ メントにダイバーシティの研修を入れている と紹介いたしましたが、新しくリーダーに なった新任リーダーの研修の中にもダイバー シティを取り入れております。人事評定をす るときに、1年間の目標を一人一人に定める 目標管理制度があり、半期ごとにそれが達成 されているのかということを面談で確認し て、一人一人目標をきちっと定めてそれを評 価するということを、新任リーダー研修で やっています。

○呉海元 日本の国としての政策、各大学、

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者だけではなくて、全社会の意識が改革しな いといけないと思っています。

○折原真子 母数が少ないお話もありました が、女性研究者割合を押し下げている原因も 圧倒的に学生、特に理工学系の女性の数が少 ない現状があります。ここをどうやって増や していくかということについて、エイミー先 生が理工系の女性を増やすため、ミドルス クールへのアプローチを熱心にされていま す。昨日もエイミー先生によるエンカレッジ 教室を大阪市立大学で開催し、本学の学生、 高校生も混じって数十名の学生さんが集まっ ていただき、先生にレクチャーしていただき ました。ミドルスクールへのアプローチにつ いて、先生、コメントありますか。

○エイミー・ウェント 私が中学生だったと きに、パズルや数学が好きで、数学の仕事を したいなとは思いました。ラッキーなことに 私の父がエンジニアだったので、父からいろ いろ学んで、工学という道があると知りまし た。工学部であれば数学を使うし、社会に役 立つことを学ぶことができると思って工学部 に入学しました。

数年前、あるプロジェクトのリーダーを務 め、中学生に対して明快なメッセージを伝え ました。アメリカでは、中学校では科学や数 学はありますが工学の授業がありません。し かし、専攻や将来の仕事を決めるタイミング は中学生です。つまり中学生のときに、女子 が、数学あるいは理系に興味があるというこ とが大切です。先に述べたプロジェクトで は、中学の数学の先生のグループとともに、 工学の日常生活への応用をもとにした教育プ ログラムの開発を行いました。これは、学生 にとって楽しいプログラムで、通常の授業で 学習する数学や科学のスキルを使い、それら

がいかに実際の工学プロジェクトにつながる かを示すというものです。

○折原真子 本学でも高校生に対してアプ ローチしていますが、やっぱり中学生のほう がいいというのがエイミー先生のアドバイス でした。リケジョをどういうふうに増やして いくか、大阪市立大学も取り組みも始めたと ころですけれど、池上先生、ご紹介をお願い できますか。

○池上知子 なぜ、リケジョが増えないか、 これにもやはり無意識のバイアスがかかわっ ていると思います。伝統的な性別役割分業社 会では、どこかで学問分野についても理系は 男性、文系は女性という線引きが長らく続い てきました。そのような根強いジェンダーバ イアスが、進路選択、分野選択を行う際に子 どもたち自身の判断に影響するかもしれませ んし、進路の指導の過程で、知らず知らずの うちに教師や親が子どもたちを誘導してしま うかもしれません。

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○小谷美樹 私も高校のときに、理系を選び ました。一生仕事をしていきたいと思い、仕 事をしていくためには技術が必要だと思った ためです。そして何よりも理系は女性が少な いので、それが自分の個性になり、個性が発 揮できるようになるのではないかと思ったの です。女性が少ない分野に女性が進出し多様 な視点で関わるとイノベーションが起こり新 しい価値観が生まれるというのが、企業から 見た切り口です。そのため、アベノミクス、 ウーマノミクスで、2013 年ぐらいから様々な 建築業でも女性を採用するようになり、現在 は優秀な人材確保の競争が激化しています。 企業も女性が長く働き活躍できる環境をつ くっていくことが今採用面からも大切だと考 えております。

○折原真子 2年半前に女性活躍推進法が施 行されて、日本はこれまでになく女性の活躍 が大いに期待されています。そうは言いなが ら、世界的に見てジェンダーギャップ指数は、 日本は残念ながら低位置で維持したままなの です。パネラーの皆さんは、既に組織での一 定のリーダーですが、これから女性研究者を 目指す、増やすというような観点で、ご自身 の経験も踏まえながら最後にお聞かせいただ けたらなと思います。

○小谷美樹 積水ハウスウィメンズカレッジ という管理職候補者研修が女性リーダーをつ くっていくための仕組みです。リーダーに は、経営視点を身につけることと、周囲を巻 き込んで経営方針に沿った行動を起こす、こ の2点を供えるということが重要だと考えて います。そういった方が出ていくと、それを また目指す人が出てくるといういい好循環を つくっていくことだと考えております。

○呉海元 組織の支援がまず必要だと思いま

す。誰でも単独はできません。仕事しながら 子育てするためには、やっぱり普通の保育で はなくて、病児保育はとても必要だと思いま す。家族の支援も必要だと思います。九州大 学の研究者夫婦での雇用制度、京都大学の研 究パートナーや夫婦としての雇用はすごくい いなと思っています。

○岡本幾子 国の施策や法整備はかなり進ん できていると思います。あとは、上位職につ いていらっしゃる方、職場の上司が、若手の 女性研究者の背中を押してあげること。女性 研究者の方々は、自身の力を信じて挑戦して いくこと。この2つが大切だと思っておりま す。

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○エイミー・ウェント 何が可能なのか、こ ういうことができるのだということをおっ しゃっていただき、すばらしいプログラムの スタートになったのではないかなと思ってお ります。皆さん方にもう一度お礼を申し上げ たいと思いますし、これからも引き続き応援 をしたいと思います。

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大阪市立大学で学長補佐をしております女 性研究者支援室長の宮野です。

本学の女性研究者支援は、このダイバーシ ティ事業の前に選定された女性研究者研究活 動支援事業から本格的にスタートいたしまし た。その1年前、平成 24 年に女性研究者支 援室を設けて、平成 25 年から3年間、事業に 取り組んできた結果、女性研究者比率を 13% から 16%まで上げることができました。

この度のダイバーシティ研究環境実現イニ シアティブ事業は、今年度から6年間、3大 学1企業の4機関がタッグを組んで取り組む 事業です。本日はキックオフシンポジウムと して、3部にわたる非常に多様なプログラム にさせていただきました。今後とも、今日こ こにご参加していただいている皆様方のご支 援をいただきながら、この4機関共同して取 り組んでまいりたいと思いますので、どうぞ よろしくお願いいたします。

最後になりますが、基調講演をしていただ きましたエイミー・ウェント先生をはじめ、 連携4機関にかかわる研究者の皆様、本日ご 参加くださいました皆様にお礼申し上げまし て閉会のご挨拶と致します。どうもありがと うございました。

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